Story
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Tatehana Noritaka
舘鼻則孝
(アーティスト)

時代に寄り添うだけでは、
革新的にはなれない。

2019.08.29 update
2019.08.29 update

コンテンポラリーな
デザインのなかにも
クラシックな要素がある。

大学の卒業制作で発表した「ヒールレスシューズ」がレディー・ガガの目にとまり、手を引かれながら歩く彼女が履いていた、約50cmもの高さのある靴の作者として、国内外で一躍脚光を浴びた舘鼻則孝さん。現在ではファッションの枠にとらわれず、多彩な表現活動をおこなっている。そんな、時代の先端を走りつづけるアーティスト・舘鼻則孝の目に、「CODE 11.59 by AUDEMARS PIGUET」は、どのように映ったのか?

「コンテンポラリーなデザインのなかにも、クラシックな要素を感じます。“コンテンポラリー”というのは、現代のライフスタイルにマッチするということ。機能はもちろんですが、現代においてはファッションの要素も多く求められる。それはある意味、モチベーションツールというか、ステータス的な要素でもあると思う。言い換えれば、それもひとつの機能といってもいいかもしれませんね。

そして何より着目すべきなのが、匠の業。本当にコンマ数ミリの世界で機械を組み立てるわけで、それが職人の手仕事によってひとつのギアとして加工されていく行程はある意味、日本のものづくりの文化に通じるものがある。日本の美術というのはもともと工芸からきていて、用途のある芸術品は『美術工芸品』と呼ばれていますが、僕は大学で工芸科だったので日本のものづくりを実際に手で学んで、それをもとに今も仕事をしています。日本では伝統工芸士と呼ばれている職人さんがいろいろな伝統産業に従事していて、そういう意味では、この時計もヨーロッパにおいてはとても伝統的な価値観のあるものだと思います。

特に腕時計は、用途と機能のすべてをデザインのなかに収めなければならないので、職人としてはある意味、チャレンジングなもの。表層的なデザインと機能を両立させることがすごく重要で、かつそれを、その時代に求められるバランスで成立させなければならない。ものづくりをする側としては、そこがとても難しい部分で、でもこの時計はそれが成し遂げられている。しかもデジタルではなく、職人の手によって担保されていることが魅力的で、そんなところが自分の仕事にも通じる部分だと感じます」

モノはつくり手の思いを
相手に伝えるための
コミュニケーションツール。

大きく開口したラグ、湾曲した風防など、革新的なデザインをまとって登場した「CODE 11.59 by AUDEMARS PIGUET」。そのコンセプトはまさしく、“Contemporary Classic”。

「すごいですよね……。有機的な曲面形状にアール・デコなデザインをするって、今でこそ新しい。しかも、この形をしっかり人間の体の形に沿わせているというのは、もちろんデザインでもあるし、機能でもある。それは身につけている側としても美しさを感じます」

そんななかでも今回、舘鼻さんがみずから選んだ時計は、「CODE 11.59 by AUDEMARS PIGUET」においてもっともシンプルな黒文字盤。普段から黒い服を着ることが多いこと、そしてミニマルデザインも自分のスタイルに合っているという。

「作品には、お客さんに受け取ってほしい思いが、つくり手のメッセージとして込められているんです。そのメッセージを発信するために、ノイズになるような情報はなるべく削ぎ落したいと作者は思う。くどくど説明されても、『この人、本当は何が言いたかったんだ?』みたいになってしまうじゃないですか。モノもそうだと思う。僕がつくっている靴も、この時計も用途があるもので、人に履いてもらって、腕につけてもらって完成するという意味では、モノはコミュニケーションツール。ブランド側が発信したメッセージをお客さんが受け取り、それをまたお客さんが着用して反応する。そのためには無駄なことをする必要はない。

だから僕の作品、ヒールレスシューズに関して言えば、“現代の日本”を表現したかった。日本の伝統的なもの、花魁の高下駄から着想を得ていますが、花魁の下駄を復活させて、みんなに履いてほしかったわけではない。現代なりの日本の前衛的な部分、アバンギャルドっていうものを、どのように表現したらいいかというのがメッセージだったので、過度な装飾はいらなかった。いわゆる厚底の靴として、それを西洋と東洋の文化の影響を受けた現代の日本人がつくったという事実が世界に発信できるものづくり、まさにコミュニケーションツールであればよかったんです」

日本人であるという、
自分で選択していない事実こそ
探求しがいがある。

日本人であるという、
自分で選択していない事実こそ
探求しがいがある。

“コミュニケーション”は、舘鼻さんの過去のインタビュー記事でも、必ずといっていいほど目にするキーワード。

「僕も今でこそ、こうやって話すことができるようになりましたが、もともと僕らみたいな人種は、言葉で伝えるのが苦手だからものづくりをしているってことなんです。小さい頃、自分ひとりで折った折り紙を母親に褒めてもらうのがすごくうれしかった。僕には妹がいるんですが、妹が生まれたことで自分には親からの愛情が注がれなくなったと感じ、アピールしていたんですね。いま思えば、それがコミュニケーションツールだった。そのときは折り紙しかありませんでしたが、今はいろんなものづくりができるようになって、たとえ英語が満足に話せなくても、外国人に対してモノだけでしっかり意思疎通ができたり、共感してもらうこともできる。そう考えるとモノっていうのは、言語に関係なくコミュニケーションを取ることができる強さをもっていると思うんです」

代表作であるヒールレスシューズ然り、一見、奇抜に思える彼の表現は、脈々と受け継がれてきた日本の伝統、その系譜の先端にある最新のものであり、それを未来につなぎたい、残したいという強い意志だ。そんな姿勢は、144年の歴史で培われた伝統を守りつつ、常に革新しつづけるオーデマ ピゲ、そして「CODE 11.59 by AUDEMARS PIGUET」とも重なる。

「今の世の中、自分で選択できないものなんて、ほとんどありませんよね?でも、自分がどの国に生まれるかどうかは選択することができない。日本人として生まれることは、自分自身で選択したことではないんです。だからこそ興味があるというか、ひとつの事実として探求しがいがあるんです。日本は明治時代以降、経済政策としても外国のいろいろな文化が入ってきて、それを編集することで成り立ってきた。自分たちの力で編集をして、それを文化として現代につないできたという礎は、大事にしていきたいと思っています」

時代をとらえることは重要。
でも、アイデンティティは
失ってはいけない。

時代をとらえることは重要。
でも、アイデンティティは
失ってはいけない。

日本人であること。そんな抗うことのできない既成事実にすら、いや、だからこそ挑みつづける。もはや、舘鼻則孝という人間自体が“BREAK THE RULES”だ。

「常にそうありたいと思っています。そのためにも、今の時代をどのように認識するかは、すごく重要なことだと思う。ある意味、時代に寄り添うことのほうがビジネス的に成功し、平穏に生きられるかもしれないけど、それだけじゃ革新的にはなれない。時代のタイムラインにどれだけ直角にぶつかれるかは、すごく重要。でも、そのまま突き抜けてしまうと、いわゆる一発屋になって終わってしまう。そのあとに、自分がどう時代に沿って、タイムラインに接して生きていくかということが、とても重要だと感じています」

そう話す彼が思い描く、自分自身の未来とは?

「日本の美術や工芸品が雑貨化してしまって、地方のお土産になってしまっているのが現状です。材料が物理的に採れなくなってしまったことを完全に食い止めるのは不可能だと思うけど、日本のものづくりの品格を保つために、これからの時代に合ったディレクションを、ひとりのアーティストとして関わっていきたいという思いはあります。

日本は経済発展しすぎて、いまだに国力として社会に認知されているのは経済しかない。文化的に厚みのある歴史を持つ日本だからこそ、世界へ向けてどのように発信をしていくべきかということはとても重要なことですし、そのような文化的価値を高めていくためにはどうすべきかを考えていきたいですね。

自分が作家としてがこういうものを表現したいとか、こういうモノをつくりたいという、人生のタイムラインにある細かな目標は、実現できると思う。自分が行動すればいいだけですから。そうではなくて、もっと俯瞰して見たときに、もちろん多様性は必要ですが、それ以上に“アイデンティティ”は失ってはいけない。そう思っています」

舘鼻則孝
(アーティスト)
Tatehana Noritaka

1985年、東京都生まれ。2010年、東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻を卒業後、同年にファッションブランド「NORITAKA TATEHANA」を設立。大学の卒業制作で発表した代表作「ヒールレスシューズ」がレディー・ガガの目にとまり、彼女の専属シューメーカーとなる。その後、21_21 DESIGN SIGHTでの「イメージメーカー展」や、岡本太郎記念館での個展「舘鼻則孝 呪力の美学」、「CAMELLIA FIELDS」などで作品を発表。2016年3月にパリのカルティエ現代美術財団で文楽公演を開催するなど、境界を感じさせない幅広い活動をおこなっている。2019年9月7日(土)~10月12日(土)の期間中、KOSAKU KANECHIKAにて新作個展「WOODCUTS」を開催。

Photo:Yuji Kawata
Hair&Make-up:Saori Hattori
Interview & Text:Satoru Yanagisawa
Edit & Direction:Shigenobu Sasaki(Condé Nast Creative Studio)

THE ROOM

新作「CODE 11.59 by AUDEMARS PIGUET」を試着できる
デジタルアート体験空間『THE ROOM』開設中

Information

会期 : 10月末まで
会場 : オーデマ ピゲ ブティック 銀座 1階 map

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