Story
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Kohashi Kenji
小橋賢児
(クリエイティブ・ディレクター)

自分という“枠”を抜け出したとき、
歩むべき道はおのずと見つかる。

2019.06.24 update
2019.06.24 update

できない理由
いくらでも作れる。
大切なのは考え抜くこと。

「オーデマ ピゲは、もちろん昔から知っている伝統的なブランド。僕はシンプルなものが好きなのですが、この時計はシンプルさのなかに、重厚感もあるのが斬新でユニークですね。僕は普段、スーツを着るような仕事ではないので、カジュアルな格好には多少の重厚感が必要なのです」

クラシックな佇まいながら、最先端の技術が凝縮された新作「CODE 11.59 by Audemars Piguet」の印象を語る、小橋賢児さん。27歳で芸能活動を休止し、単身渡米。世界中を旅するなかで得た経験を生かし、世界最大級の音楽イベント「ULTRA MUSIC FESTIVAL」の日本上陸の立役者となるなど、現在、クリエイティブ・ディレクターとしてマルチな活躍をみせている。そんなクリエイターとしての姿は、フォトグラファーやスタイリストと積極的に意見を交わしながら進める、今回の撮影からも垣間見られた。

「僕が一番大事にするのは、お客さんの目線。特に初めて見る人がどう感じるかを重視しています。どれだけ入念に作り込んだとしても、見る人が直観的に“違う”と思ったらそれで終わり。どんな事情があったとしても、見る側はそんなこと知る由もないですし、言い訳にならない。本番でいいものができなければ、それまでです。だから、どれだけしっかり打ち合わせをしたとしても、現場に行って違うと思ったら変える。考えて考えて、最後に最善の方法が見えてくることもありますし、結果として、関わる人すべてがハッピーになることが大切だと思う。僕はクリエイティブ・ディレクターという肩書きで仕事をさせてもらっていますが、以前チームのメンバーがふざけて、組織図の僕の役職に”クレーマー・ディレクター”と書かれているときがありました(笑)」

それは、「しなければならない」という“Have to”から、「やりたい」という“Want to”へと、自分自身を解放する作業だという。

「“できない理由”はいくらでも作れる。『みんなが言っているから』『もう決まったことだから』『予算がないから』とか。でも、そうなってしまったら、考えることを放棄しているのと同じですよね。僕の場合、お客さんに喜んでほしいというのが“Want to”。そして、現代社会のなかで知らず知らずのうちに“Have to”を作ってしまっている自分から解放されて、「こうしたい」という“Want to”に気づくきっかけを作ることができたらと思っています。その一歩こそ、その人にとって本当にかけがえのないものだと思いますから」

きっかけはなんでもいい。
まず行動することが
重要なんです。

とはいえ、彼自身も若かりしころは“俳優”という肩書きに縛られ、自分の可能性を狭めてしまっていた。

「俳優のころは周囲の目を気にして、『俳優はこうでなくてはならない』『こうすべきではない』というように、“俳優”を言い訳に自分の可能性をつぶしてしまった20代だった気がします。どんなにいいことも悪いことも、捉え方次第で自分にしか描けない人生へと導いてくれるのに、それに反発したり、心地よいものに執着したり、自分ではない誰かを目標にしたり……。“Have to”ばかりに縛られて、本来、自分が歩むべき道を見失っていた」

目標を持つことは大事。でも、さまざまな情報が溢れる時代のなかで、その目標を自分以外の“何か”に当てはめてしまうと、そのギャップに苦しんだりもする。未来からの逆算ではなく、いま自分の目の前にあることから“Want to”を見いだそうと、俳優活動を突如休業し、アメリカへ飛んだ。

「アメリカで何かしてやろうと思っていたわけではなくて、このままじゃまずいと苦しみ、追い詰められてのこと。でも、きっかけはなんでもよくて、まず“行動する”ことが重要です。それは海外に行くということだけではなく、自分の知らない世界に飛び込むことだったらなんでもいい。たとえば苦手だった友達と会話してみたり、疎遠だった父親とお酒を飲んでみたり、知らない店にふらっと入ってみたり。そうやって自分の殻を破ることによって、必ずあとから何かがついてくると思います」

自分という
抜け出すことで、
新しい何かが生まれる。

自分という
抜け出すことで、
新しい何かが生まれる。

自分の殻を破る――
それは、ブランドの代名詞である「ロイヤル オーク」で、世界で初めて高級腕時計の素材にステンレススティールを採用した、オーデマ ピゲの革新性にも通じる。そして、そんなイノベーティブな姿勢は、この「CODE 11.59 by Audemars Piguet」にも脈々と受け継がれている。

「やりたいことが見つからないとか、楽しいことが見つからないという声をよく聞きますが、それは自分の“枠”から抜け出していないからだと思う。そこは居心地のいい場所かもしれない。でも、その枠からはずれたときに初めて、気づくことがあったり、ドキッとしたり鳥肌が立つようなことに出合えます。たとえそれでネガティブな状況に陥ったとしても、すべては今の自分に向けられたメッセージ。僕は30歳直前で一文無しになり、肝臓も壊しました。ただ、いま思えばそこで一度“ゼロ”になって、自分の枠を取っ払って知らない世界に飛び込み、心を動かすような体験ができたからこそ、今の自分があると思う。たった1回のフェスでも、ボランティア活動でもいい。自分という“枠”を破り続けることで、新しい何かが生まれるのです」

両極を知ってこそ、
真っ当な道を
歩くことができる。

両極を知ってこそ、
真っ当な道を
歩くことができる。

2歳の息子の父親として、雑誌の連載で子育ての様子を披露し、最近はキッズパークのプロデュースも手掛けたほど。子供が生まれたことで、自分のなかで確実に変化したのが、“時間”の捉え方だという。

「それまでは1日、2日という短期間での目標を立てることが多く、イベントも2日間で開催することがあり、そんな意識で時間と向き合ってきた。でも、子供は日々成長するし、その成長を一緒に見届けるわけで、そうすると自分のなかに“未来”という時間軸ができた。残っていくもの、そして変化していくものに視点が向くようになりましたね。最近ではキッズパークもそうですし、公園の再開発にも携わっていて、長期的な視野でおこなう仕事も増えてきた。この一瞬も大切ですが、時間の流れというものを感じることができるようになったのは、子供が生まれてからです。

そして、時間は自分ひとりのものではないと思えるようになった。子供が起きる前に仕事を済ませるとか、限られた時間をどう使うか、常に時間を意識して生活するようになりましたね」

彼には、常に自分に言い聞かせている言葉があるのだとか。

「僕が好きな“中道(ちゅうどう)”という言葉があるんですが、両極を知ってこそ、真ん中の道を歩くことができるという意味。現代はSNSの普及もあって、誰でも簡単に自分と同じ感覚の人たちとつながることができる一方、偏った感覚に陥ってしまう危険性もはらんでいます。国や宗教が違えば、当然、違う考え方がある。今とは違う場所に足を踏み入れたとき、中心がずれたとき、自分は何を思って、どう行動するかが大切だと思う。自分の周囲のみに影響を受けているだけでは、まだ狭い。“枠”からはずれることを常に意識し、そこでの気づきこそ、本当に歩むべき道なのです」

小橋賢児
(クリエイティブ・ディレクター)
Kohashi Kenji

1979年、東京生まれ。8歳で芸能界デビューし、以降数々のドラマや映画、舞台に出演するも、2007年に俳優活動を休業。2012年、長編映画『DON’T STOP!』で映画監督デビュー。同作品がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてSKIPシティアワードとSKIPシティDシネマプロジェクトをW受賞。また、「ULTRA JAPAN」のクリエイティブ・ディレクター、未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」(今年は7月20日(土)に東京・豊洲ぐるり公園で開催)の総合プロデューサーを歴任。最近では新感覚キッズパーク「PuChu!」をプロデュースするなど、世界規模のイベントや都市開発などの企画運営に携わる。自身初の著書『セカンドID-「本当の自分」に出会う、これからの時代の生き方』(きずな出版)も発売中。

Photo:Yuichi Akagi(eight peace)
Styling:Takafumi Kawasaki(MILD)
Hair&Make-up:Rena Suzuki
Interview & Text:Satoru Yanagisawa
Edit & Direction:Shigenobu Sasaki(Condé Nast Creative Studio)

THE ROOM

新作「CODE 11.59 by AUDEMARS PIGUET」を試着できる
デジタルアート体験空間『THE ROOM』開設中

Information

会期 : 10月末まで
会場 : オーデマ ピゲ ブティック 銀座 1階 map

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